説得力の話

最近漫画について思ったことをまとめようと思う。思うまま書いているので推敲が足りない部分があればすみません。


漫画という創作物にとって最も重要な要素とはなんだろう。
僕は、「説得力」だと思う。
説得力とは、紙上で皆まで語られていないバックヤードの部分まで感じ取れるかどうか、ということだ。

登場する建物に説得力を持たせるとしよう。
まず、この建物の建材はなんなのか、何のための建物なのか、出入り口はどこなのか、など基本的な要素を満たした上で、
金持ちの企業のビルなのでエントランスが広く洗練されたデザインであるとか、ここ数年の間に建てられたから窓もトイレも広くて調度品も新品に近いとか、そういった深くまで練られた設定をそれとなく頭に浮かべながら描くことで真に迫る建物になる。

登場するキャラクターの場合はどうか。
年齢、性別、人種、服装、性格、能力、周囲の状況などは基本的な要素だ。
それに加え、
几帳面な性格なので身につけるアクセサリーは常に同じもの同じ場所だとか、手のマメから拳銃の名手だと悟られないためにいつもポケットに手を入れたままにしているとか、
そういうさりげない仕草や表情、服装などに納得できる理由や統一性を持たせることで説得力が出る。
同じようなポーズでも足の開き方や顔の角度などで性格が滲み出てくることもある。


このような「説得力」は、絵と台詞によって表現される。漫画には基本的に絵と台詞しか存在しないからだ。
僕の体感としては、絵7 : 台詞3くらいの割合で表現を担っていると思う(もちろん、それぞれが単独して表現しているのではなく、密接に絡み合っている)。
つまり画力は説得力の鍵を握る要素になる。しかし、画力が高ければそのまま直に説得力を裏付けるという訳ではない。
画力があれば表現の幅が広がるというだけで、どうしても画力が足りないのであれば、自分の描ける絵で説得力の裏付けが崩壊しないような漫画を描けばいいということだ。
例えば、ギャグ漫画だと真に迫る説得力よりも会話の掛け合いやテンポによって魅せるものが多いので、飛び抜けた画力や細かい描き込みはむしろ流れを邪魔してしまうことがある。そのために敢えて写実的な表現を避ける漫画家もいる。典型的なのがうすた京介先生だろう。

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この2つはうすた先生の作品だがそれぞれ別作品。対比させやすかったため例示させてもらった。
上の絵のように、写実的な表現でも上手く描けるのに、
下のような力を抜いた絵でも魅せるのが上手い。
絵だけでなく描き文字まで落書きのような雰囲気だ。
このように、力を抜いたりテンポを上げたりするのには柔軟に絵の雰囲気を変える必要がある。
抜くべきところでは抜き、描くところではしっかり描くという切り替えも、特にギャグシーンでは重要になってくる。
しっかり描いている部分で説得力を持たせられたなら、抜いた部分で説得力がひっくり返ることはまずないだろう。

まとめ。
漫画にとって重要なのは「説得力」である。
画面に描かれているもの全てに意味や文脈を持たせることで架空の世界が実体を持ち始める。
いくらデフォルメしても、いくら省略しても、この説得力の裏付けを崩壊させなければあとは純粋にストーリーや世界観、キャラクターで魅せることができるようになる。逆に言うと説得力という前提が崩れると途端に読者の頭には「?」が浮かんで、作者が見せたいものが曇ってしまうのだ。